Interview

北米のアウトドアシーン  過酷かつクレージーなトレイル事情を探った(後編)

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Vol.9 池田祐樹さん(プロマウンテンバイクライダー)

〈プロフィール〉
いけだ・ゆうき/1979年生まれ。TOPEAK-ERGONレーシングチームUSA所属のプロマウンテンバイクライダー。2019年の戦績は、「セルフディスカバリーアドベンチャーin王滝100km」(日本・長野)優勝のほか、トレイルラン「アドレナリンナイトラン50㎞」(アメリカ・アリゾナ)優勝など。春からは、拠点を日本からアメリカに移し、“生涯健康、生涯現役”を目指し、世界中のレースを転戦する予定だ。

前編はこちら

トレイルランニングが、一気にメジャーに

山で遊ぶ人たちの間で増えているのは、トレイルランですね。
走る人は、北米でも、本当に増えてきました。
10年ほど前から通っているアメリカのトレイルでは、以前はハイカーとマウンテンバイカーがほとんど。
でも、今はトレイルランナーとマウンテンバイカーがほぼ同じです。
場所にもよりますが、僕がよくアメリカで利用するトレイルは割合として、ラン4、バイク4、ハイカー2くらいのイメージです。
実は、僕もここ数年、トレイルランニングの魅力にハマって、のめり込んでいます。
2019年、アリゾナで開催された50㎞の「アドレナリンナイトラン」という、夜7時にスタートして満月の下を走る、凄く素敵でクレージーなレースに出ました。
僕のウルトラ(フルマラソン以上の距離)トレランのデビュー戦でしたが、ここで優勝できました。
新たにトレランを始める人たちも、今までにない刺激を求めているのだと思います。
例えば、爆発的に増えたロードランナーたちは、フルマラソンに完走して、数年続けて、そこからさらに刺激のあるステップに行くときに、トレランに出会っているのだと思います。
僕自身、普段はマウンテンバイクで走るトレイルを、ランで走ってみたら、新感覚の刺激に“めちゃくちゃ全然、面白いじゃん!”と思いましたから(笑)。
ランニングは、地面というか、地球との距離が近くて、隔てるものは靴のソール1枚だけですよね。
マウンテンバイクだと、自転車という機材を通じて、路面状況など自然の情報を感じるのですが、ランだと、より自然との距離が近く、カラダに入ってくる情報量が、全く違うんですよ。
くさい言い方ですが、“地球を感じられる”んです。
匂いを含め、森の中の感覚は、マウンテンバイクよりスローであるランの方が感じやすい。
究極は、原始人に還って、裸で森の中を走りたいと思っています(笑)。

世界で、最も過酷なレースに挑む

2020年は、「レッドマン」というシリーズ戦の優勝を目指します。
「レッドマン」は、僕が調べたなかで、世界でも最も過酷で、クレージーなマウンテンバイクとトレイルランを掛け合わせたレースです。
2か月間で、全5戦、コロラド州のレッドビルという、ロッキー山脈の標高3000mの高所で行われます。
昨年は、5戦中の4戦まで、僕が首位をキープしていたのですが、最後の一戦で怪我をして、リタイヤしてしまいました。
逃した優勝に、リベンジしたいというのが、今の最大の目標です。
「レッドマン」の第1戦は、42.195㎞のトレイルマラソンです。
2戦目は、2日連続で、50マイル(80㎞)のマウンテンバイク、またはトレイルラン(出場種目により、表彰カテゴリーが異なる)。
3戦目は、マウンテンバイクの100マイル(160㎞)。
4戦目は、3戦目の翌日の10㎞のトレイルラン。
5戦目は、その6日後の、100マイル(160㎞)のトレイルランです。
シリーズ戦が2か月なのに、3、4、5戦が連続しているのが、不思議なのですが、まあ、それが過酷の理由でもあるので、僕としては挑戦しがいがあります。
このレースは極端ですが、多くの方々も、ロードのイベントにいろいろ出て、「次に何しよう?」となったときに、マウンテンバイクやトレランの存在に、改めて気づいているのだと思います。
今後、マウンテンバイクとトレイルランニング、双方のスポーツがもっと刺激し合えば、さらにアウトドアスポーツの魅力が発信できます。
僕は、そのパイオニアと言ったらおこがましいですが、両方のスポーツに対して、プロ選手としてリザルトを残して、説得力を持って皆さんに魅力に伝えられたらと思っています。

プロとして、スポンサーに期待されていること

チームが、僕に求めているのは、「競技の結果は、確かに大切だけれど、それをどう生かして、発信するか」ということです。
レースに勝ったからと言って、スポンサーの商品が売れる時代ではありません。
選手に魅力があって、何を発信していけるか、が問われています。
いわば、ライフスタイル全部の発信です。
それは、普段のトレーニングも含めてです。
SNSでトレーニング内容を公開することで、読んでくれた一般の方に、親近感を持ってもらうことは常に意識しています。
今日のトレーニングであれば、陸上のトラックでの1000m×3本、競技場の脇の激坂での2分のダッシュ×2本、トレイルランをジョグペースで2時間、といった具合です。
「意外に、特別なことをやっていないんだ」というコメントをもらったりします(笑)。
トレーニング内容も、時代とともに変わってきて、以前はトレーニングの量が重視されていましたが、今は質が重要視されていますよね。
発信し続けることで、興味をもってもらい、理解を深めてもらえたらと願っています。

肉を食べなくても強くなれる! 100%菜食アスリート

食生活をSNSで公開しているのも、反響がありますね。
僕は、プラントベース(菜食中心の食生活)を始めて6年目ですが、体重はストレスなく約4㎏絞れました。
今朝の体脂肪率は、8.7%です。
食事内容はいろいろ試行錯誤をしましたが、ここ2年ほど、ほぼ100%菜食の生活をしています。
体調管理もパフォーマンスも含め、プラントベース食は、僕の全てに於いてプラスです。
動物性のものを食べていた時は、競技パフォーマンスは向上していましたが、同時に喘息などのアレルギー体質にも悩なされていました。しかも、風邪をひきやすく、おまけにエンデュランスレーサーのくせに、血圧も高めだったんです。
菜食生活に移行したきっかけは、当時のチームメイトだった、ソーニャ・ルーニー選手です。
ソーニャも僕も、ジャンクフードが好きだったのですが、ソーニャはボーイフレンドの影響でビーガンに変わった途端、カラダが絞れて、パフォーマンスも上がりました。
しかも、24時間のソロのマウンテンバイクの世界選手権で優勝したんです。
「祐樹も、健康のためにも、競技のためにも、1回は試してみなよ」
ソーニャの言葉で、完全菜食を厳格に半年間やってみました。

花粉症も、高めの血圧まで解消!

最初は無理かと思ったのですが、3か月くらいで、悩まされていた花粉症がその春には出なくなり、高かった血圧も適正値に入り、さらに下がってゆきました。
年に5、6回引いていた風邪も、半年間1回も罹りませんでした。
スポーツ選手で悩む方が多い、運動誘発性の喘息の発作もなくなって、朝晩の吸引薬を止めることができました。
さらに、保険料まで安くなる、良いオマケ付きです。
「肉を食べないとスタミナ不足、パワー不足になるのでは……」という不安も、その年の夏の160㎞のレースで優勝できて、解消されました。
ビーガンのエンデュランス選手は、世界的には、ウルトラランニング、ロードバイカーにもたくさんいます。
でも、自分自身が“これは凄いぞ”と体感したことに勝る説得力はありません。 
ストレスなく体重が4㎏絞れた体型の変化の写真や、カラダの内側からの改善過程などをSNSでも公開しているので、僕と同じような悩みを抱える方の改善につながるヒントになれば嬉しいと思っています。
自分が、人生の目標にしているのは、“生涯健康、生涯現役”です。
100歳になっても、何かの現役でいようと思っています。
できれば、今現在、自分がパッションを持ってやっている、マウンテンバイク、トレイルランニングで、胸を張って、“今の自分が最高だ”って、胸を張って言えるような活動を続けたいと思っています。
それが、僕のライフスタイルなのですから。

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