Interview

鍵は、“地域”、“高齢者”、“子ども”
Tリーグ松下チェアマンの壮大な挑戦(続編)

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Vol.9 松下浩二さん(Tリーグ チェアマン)

〈プロフィール〉
まつした・こうじ/1967年、愛知県生まれ。1992年のバルセロナから2004年のアテネまで、4大会連続でオリンピックに出場。世界卓球選手権では1997年大会で男子ダブルス銅、2000年大会で男子団体銅。日本人初のプロ卓球選手として、ドイツ・ブンデスリーガ、およびフランスリーグでプレーした。2009年現役引退後、卓球用品総合メーカー会長などを経て、2017年Tリーグ専務理事、2018年7月よりTリーグ代表理事、同コミッショナーに就任。

若手選手の大活躍で、かつてない盛り上がりをみせる、日本卓球界。
そんな卓球のトッププロを集め、東京、大阪、沖縄などの8チームで、Tリーグは日本のスポーツを根底から活性化させようとしている。
Tリーグの松下浩二チェアマンが掲げる壮大なプロジェクトは、全国1700の市区町村、全てにTリーグのチームを作るというもの。
そのプロジェクトを実現させる鍵は、“地域”、“高齢者”、そして“子ども”だという。

福原愛の登場で、卓球の
イメージが、根底から変わる!

「若い選手の影響で、卓球のイメージは全く変わりました。大きいのは、福原愛さんの出現ですね。小さな5歳の女の子が試合に出て、負けると“お母さ~ん!”って泣いて(笑)。愛さんの登場によって、大人たちの気持ちが、自分の娘を見守る眼差しに変化しました。その後も、愛さんは選手として順調に育ち、オリンピックに出て、メダルも獲って……。卓球界にとって、本当に良かったと思っています」
福原愛は、日本人の卓球の印象そのものを塗り替えた存在、と松下チェアマンは語る。
そんな福原愛の姿を見て育ってきたのが、現在、世界の卓球をリードする日本選手たちだ。
「愛さんを見て、愛さんを目指して頑張ってきたのが、伊藤美誠選手、平野美宇選手、早田ひな選手です。彼女たちのお母さんたちが、“愛ちゃんみたいに”って、自宅に卓球台を置いて、育ててきました。この世代が、テレビに出るようになって、卓球のイメージがどんどん加速して変わってきました」
2012年のロンドンオリンピックでの、女子の団体銀メダル。そして、2016年リオデジャネイロオリンピックでの、男子の団体銀メダル。メダルに全く手が届かなかった“日本のマイナー競技=卓球”からの脱却を、若手の選手たちが見事に成し遂げてゆく。
「そうこうしているうちに、張本智和選手も出てきました。今は、選手は強いし、キャラが立っていますし、イメージがさらに変わってくれると期待しています」

誰もができる卓球だから
すそ野は、果てしなく広い

「卓球は、3歳から100歳まで、子ども、親、祖父母、曾祖父母、4世代が楽しめるスポーツです。今後、卓球のトップリーグのTリーグがある地域は、“おらが街のチーム”を応援しようと盛り上がってゆきます。Tリーグが立ち上がって、1年ちょっと。今は、卓球をやられている方が、応援に来ていただいている形ですが、さらに一般の方に来てもらって、盛り上がればと思っています」
そこで鍵になってくるのが、“高齢者”“地域”“子ども”だという。
「Tリーグの平日開催の試合では、高齢者の比率が比較的に高いのが特徴です。マーケットとしても、高齢者をターゲットにするのは、ライバルが少ない分、良いと思っています。真ん中層の“20代、30代のファンを増やさなきゃ”という議論もありますが、僕は、その必要性は、今はないと思っています。下と上とで、広がりが大きくなるはずです。おばあちゃんやおじいちゃんが、孫を試合に連れて観に来るのって良いことですからね」
観客動員増を目指すスポーツが、同じパイを奪い合うのではなく、違った視点で集客を図るのは、マーケット的にも正しいのかもしれない。
「20代、30代は、やることが多いですよね。サッカーに行ったり、バスケに行ったり、自分で運動したり……。でも、子どもや高齢者は、あまり浮気しません(笑)」

地域活性と体力増進
高齢者を、卓球場へ!

「高齢者の方に、卓球場に来てもらって、卓球をやることによって、健康の増進に結び付けて欲しいと考えています。現状、まだ手を付けられていないのですが……」
卓球という、幅広い年代が楽しめるスポーツは、まだまだ高い可能性を秘めていると、松下チェアマンは思いを巡らす。
「地域の公民館などで、高齢者の方が、卓球を教えているケースがよくあります。そんな方々に、我われTリーグは、まだアプローチできていません。でも、こうした方々と、各地域のチームが連携して、例えばチームユニフォームを着てもらっての指導などは、ありかもしれませんよね。高齢者へのアプローチは、なるべく早く整えて、社会に貢献できるようにしてゆきたい課題です」
誰もが、気軽に、卓球ができる環境を整えることも、急務だという。
「施設が少ないですね、日本は。ドイツの半分くらいしかないと思います。日本では、やりたい人が多く、順番待ちで、週に2回しかできない施設もあるくらいです。坪単価的に採算が合うかという面もありますが、地方の廃校などを活用して、卓球台を置くなら、すぐにでもできると思います。地方の駅ビルやショッピングモールの空きスペースを利用するのもありですよね」
卓球を通じた健康増進で、医療費の削減に貢献し、卓球を核として人を集め、地域を活性化する。その中核としてのTリーグの役割は、たくさんの可能性を秘めているのだ。

地域のファンの目の前に
白熱の試合を届けたい!

Tリーグ発足とともに、トップ選手たちは、全国各地の観客の目の前で、白熱した試合を行うようになった。
「それまでは、全日本選手権とジャパンオープンという国際大会が、トップ選手の試合を目にする数少ない機会でした。つまり、ほぼ、彼らを“生”で見る機会がなかったんです。現在は、北海道から沖縄まで、トップの選手を“生”で見る機会ができたのは、卓球ファンのみならず、一般の方々にも、喜んでもらえるチャンスだと感じています」
Tリーグの発足により、にわかファンも含め増え、全試合に足を運ぶ熱烈なファンも生まれるようになった。
「しかし、もっとチーム数を増やさなければ、話になりません」
課題は、年間数億円にもなる、チームの運営費だという。
「Jリーグさん、Bリーグさんの話も参考にしています。地域のクラブチームとして、300~400社のスポンサーを集めて運営するのは、時間も手間もかかります。その点、日本のプロ野球のように1社が運営すれば、手間はそこまではかかりません」
現在、Tリーグには、プロ野球のように1社が運営する企業チーム型と、JリーグやBリーグのように300~400社を積み上げる地域密着のクラブ型が併存している。
「今のところ、5チームがいわゆるクラブ型で、3チームが企業チーム型です。今はトップリーグの8チームしかなく、新規のチームを作るのもなかなか難しいですが、チームが増えてゆかないと話になりませんから、頑張りどころです」

動き出した、地域の子どもへの
草の根プロモーション

Tリーグでは、チームそれぞれが、地域貢献に取り組むことを義務化している。
「まずは、6歳以下の子どもを意識した、卓球教室です。活躍している選手は、中国を含め、だいたい3歳から卓球を始めています。Tリーグでは、6歳以下の子どもたちへの取り組みを組織的に行い、選手を育ててゆこうとしています」
代表例は、大阪が拠点の「日本生命レッドエルフ」だ。
日本生命では、大阪市内の幼稚園に卓球台を寄付し、巡回指導をしているという。
選手やコーチがローテーションを組み、定期的に幼稚園に赴くことで、子どもに卓球と選手に馴染んでもらう、草の根のプロモーション活動である。
「まだ8チームしかないので、8か所だけですが。これが今後、2部,3部,4部と落とし込んでいって、活動の幅を広げられたらと考えています。若い選手の活躍もあって、最近では、土日の試合に、子どもたちが見に来てくれることも増えました」
地域での普及や育成に、近道はない。
長期的な取り組みがあってこそ、たくさんの花が咲くのだ。

Tリーグが描く
卓球のある暮らしとは

「卓球の大会は、全国で、少なくとも年間7000くらいあると、私は見積もっています。土日だけでなく、平日も毎日、どこかで試合が行われていますから。でも、こんなに大会がたくさんありながら、オープンで参加できるイベントは、実は、多くありません。もったいないと感じています」
その理由は、選手の登録システムにあるという。
例えば、東京の選手が、都内の大会に出て、その翌週に静岡の大会へ出場することは、選手登録のシステム上、日本の卓球界では対応できていないという。
「ドイツでは、アマチュアに限ってですが、他県にも登録ができます。2重登録や3重登録がOKなのです。自分の好きな複数のクラブに登録して、旅行がてらに、たくさんの試合に出る機会が増えますから、卓球をより幅広く楽しめるのです」
旅行とスポーツを組み合わせた、参加型のスポーツツーリズムは、地方にお金をもたらすとともに、参加者自身の人生を豊かにも彩るスパイスにもなる。
「Tリーグで、各チームがオープンな大会を作って、“誰でも参加していいですよ”と呼びかけたいですよね。リーグでは、登録を簡素化できる“ワンID”の構想もありますが、まだまだ情報の収集や、検討が追い付いていません。温泉卓球ツアーなど、もっともっと楽しいことができると思います」
松下チェアマンの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
近い将来、大変貌を遂げたTリーグの姿を、この連載で再び紹介しよう!

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