Interview

疲れたココロとカラダに、“森ぼっこ”
まずは、「森林浴」から始めよう!

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Vol.10 小野なぎさ さん(一般社団法人 森と未来 代表理事)

 
 

〈プロフィール〉
おの・なぎさ/1983年、東京都生まれ。林野庁林政審議会委員、認定産業カウンセラー、森林セラピスト。東京農業大学で林学を学んだ後、企業のメンタルヘルス支援の会社で森林を活用した研修プログラムを開発。さらに、都内の心療内科でカウンセラーとして活動後、2011年に「保健農園ホテルフフ山梨」プロジェクトマネージャーとしてホテルの立ち上げ兼森林セラピストに従事する。2015年に「森と未来」を設立。著書に『あたらしい森林浴』(学芸出版社)など。
 

カサッ、コソッ、カサッ、コソッ。
東京のベッドタウン、八王子郊外のとある森の小径。
春まだ遠い森の木々は、葉をすっかり落とし、明るく暖かな日差しに包まれている。
「先日、雪が降ったので、土が湿っていますね。しかも、今日は気温が高いから、いろんな香りが森から上がっています。土の匂い、感じますか?」
全国各地の森で、森林浴のプログラムを開発している「森と未来」代表理事の小野なぎささんは、私たちを、森の奥へといざなう。
「このケヤキ、何歳くらいでしょう? 仮に樹齢200年だとすると、この木は200年前からこの場所にあって、今、私たちのことを見おろしています。木に触れ、その温もりを感じながら想像してみると、森って、過去、現在、未来と繋がっていることが分かりますよね」
小野さんが、私たちを誘う先は、小径が途切れた、森の中の明るい広場。
「さあ、“森ぼっこ”のポイントに到着です。ちょっと、横になってみましょう!」

森でのんびり寝転ぶ
人気プログラム“森ぼっこ”

森の中で、疲れたココロとカラダを開放し、のんびり寝転ぶ、“森ぼっこ”。
小野さんおすすめの“森ぼっこ”ポイントは、私鉄の駅から歩いて15分ほど。
にもかかわらず、鳥のさえずりと、時折聞こえる電車の音以外、落ち葉を踏む自分の足音だけが静かに響くだけ。東京都内とは思えぬ、癒しの森だ。
「多くの人は、森に来ても、歩くことなどに夢中で、森そのものを感じないまま帰ってしまいます。なので私は、日なたのぽかぽかした中で寝る“森ぼっこ”をおすすめしています」
小野さんは、森林浴のプログラムの途中に休憩を兼ねた“森ぼっこ”や、プログラムの最後に締めくくりとして“森ぼっこ”を行っている。
「現代人は疲れているので、森を歩くと、すぐに座りたくなります。座ってから、さらに横になれば、間違いなく眠りたくなり、自然と力が抜けてきます(笑)。会社の研修で森林浴に来ていても、“森ぼっこ”をすれば、肩の力が抜けていきますよ」
小野さんがすすめる“森ぼっこ”の手順は、次のようなものだ。

30分、森で寝るだけ
“森ぼっこ”のざっくり手順

🍁 森の中の、日なたがポカポカしている場所を選ぶ。
🍁 落ち葉があるところがベターで、できれば人目から離れたところが良い。
🍁 “ここ良いな”と思う場所で、マットを広げる(気にならなければ、マットなしでも)。
🍁 座ってみる(見える景色も、香りも、変わります)。
🍁 寝転がって、森の香りを嗅ぐ(土の香り、落ち葉の香り、鼻の中に広がります)。
🍁 軽く目を閉じ、自分の感覚に意識を集中する(音、香り、背中で森を感じます)。
🍁 お腹の上に両手を置き、呼吸を意識する。
🍁 “ふ~~”と、口から大きく息を吐き切る。
🍁 鼻から大きく、“す~~”と吸って、森の香りを楽しむ。
🍁 再び、“ふ~~”と、口からゆっくりと息を吐いてゆく。
🍁 吐き切ったら、鼻から、森のおいしい空気を、今度はお腹に届けてゆく。
🍁 こうした、お腹で呼吸をする「腹式呼吸」をゆっくり、10分ほど繰り返す。
🍁 自分がバターのように、森の中に溶け込んでゆく様をイメージしながら、15分ほど何も考えずに過ごす。
🍁 ゆっくり目を開け、そこから見える景色をゆっくり眺める。

遠くに行かなくてもOK
森の上手な探し方!

「葉っぱがゆらゆら落ちてきたり、枝の先に見える雲がゆっくり動いたり、鳥が飛んでいたり、風が遠くからやってきたり……。そんな風に、空を見上げるって、普段なかなかないので、皆さん引き込まれるようです」
とりわけ冬は、木の葉が落ちて空は明るく、虫や蛇なども姿を消しており、落ち葉のぬくもりを感じられる“森ぼっこ”に絶好の季節。
なるほど、森へ行って寝るだけなら、疲れた私たちにも、手軽にできそうだ。
でも、そんな森は、簡単に見つかるのだろうか?
「〇〇森林公園とか、××自然の森、△△市民の森って、名前を探して行ってみましょう。近くにそうした場所がなくても、大きな公園にも、森があったりします。あるいは、スマホのマップを開いて、緑色が広い、緑が生い茂っている所へ行ってみるのも手です(笑)」
小野さんの経験では、わざわざ山奥に行かなくても、身近に森は探せるのだという。
「“むやみに、森に入っちゃダメ”と思っている人はたくさんいます。でも、入ってもいい所もいっぱいあります。道がなくても、ちょっと行けば、開けているところはたくさんあります。里山の古くからの生活道で、地元の人が犬の散歩をしているような小径なら、ひとりでぼ~っとする分には、問題はありませんよ」

実は、日本発祥!
森で行う健康法=森林浴

「“健康のために、森林浴をする”という発想は、日本でメジャーではありませんでした。日光浴、海水浴のように、木漏れ日を浴びる=森林浴と、日本人も頭では理解していますが、それが、健康と繋がっていないのです。でも、海外では、森で行う健康法=森林浴です。健康のために、森林浴をする。だから、健康に関心のある海外の人たちが、森林浴に興味を持っているのです」
森林浴に関する医学的な研究は、15年ほど前に、実は、日本で始まったという。
「2004年くらいから、森の中に医師が入るようになってきました。“人間のカラダに、森がどう良いのか?“という研究が始まりました。脳波、血圧、尿検査、血液検査などから、“森に入る前と後”の数値を調べ出しました」
その結果、森林浴によるストレスホルモンの低下や、NK(ナチュラルキラー)細胞という免疫細胞が増加、睡眠の質の向上などが分かってきたという。
日本での森林浴の研究が、世界で大きく評価されているのだ。

植物が放つストレス物質が
人間を癒し、健康にする!

「森林浴がカラダに良い理由のひとつが、木が発している物質、フィトンチットです。ロシア語で、フィトンは植物、チットは殺す。木は動けない分、木なりのストレスがあります。虫が来るとか、鹿に食べられるとか、雨に降られるとか……。そういう時、相手を寄せ付けないように働く物質が、フィトンチットです。フィトンチットは揮発性の物質で、あまり匂いはないのですが、実は、人間にとって癒し効果や、健康の効果があると言われています」
森林浴がカラダに良いもう一つの理由は、森に入ると、五感をフル稼働させるためだという。
「太陽の光を浴びたり、枝や岩に触る、土の匂いを嗅ぐ……。五感の中でも、とりわけ香りは、ダイレクトに脳へ刺激が届きます。五感をフルに使うことで、免疫細胞を増やす結果に繋がると考えられているのです。世界の医療が、森林浴を評価するようになってきました」

次回は、スポーツやビジネスにも効く、森林浴の効果を紹介しよう。
後編はこちら

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