海の安全を守り、子どもを育てる 「館山サーフクラブ」の挑戦!

#インタビュー

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Vol.12 飯沼誠司さん(館山サーフクラブ代表)


                                                           

〈プロフィール〉
いいぬま・せいじ/1974年、東京都生まれ。館山サーフクラブ代表、ライフセーバー、タレント。2010年世界選手権SERC銀メダル、1997~2001年ライフセービング日本選手権オーシャンマン5連覇。2015~2016年、ライフセービング日本代表監督就任。2006年に「館山サーフクラブ」を千葉県で立ち上げ、水辺の事故を予防するライフガード活動、ジュニアプログラム、「オーシャンフェスタ館山」開催などに従事。2019年3月現在の団員数は127名。

スポーツを核にした、地域おこしを!
その実践例を、千葉県・館山市で取材した。
「館山市は、千葉県の南に位置するので、冬でも暖かです。昼間なら、Tシャツで過ごす日もあります。海はもっと温かくて、冬場、海から湯気があがっていることも。海も、陸もスポーツに適しています。トライアスロン、サーフィン、ゴルフやランニング、釣りなど、週末は県外からも人が集まる、スポーツの街になってきました。そうそう、ウインドサーフィンメッカでもあるので、ビックリするような風が吹いたりしますよ」
館山の魅力を熱く語るのは、ライフセーバーでタレントでもある飯沼誠司さん。
「パドルボードという、手で漕ぐボードの乗っていると、ウミガメやイルカ、シイラに遭ったり、トビウオがバンバン飛んでいたり……。今日は無理ですが、海越しの真正面に、富士山が見えます。シーズン中の真夏、太陽が富士山に乗って輝く“ダイヤモンド富士”現象を、ジュニアから年配の人まで、ライフセービングに関わる人みんなで、海に浮かびながら眺めたりすると、館山に来て良かったとつくづく感じます」
飯沼さんは、2006年から「館山サーフクラブ」というコミュニティを立ち上げ、夏は6つのビーチのガード活動を仕切り、1年を通じてジュニアも含めたライフセーバーの育成に当たっている。

 

海水浴場はたくさんあるのに
ライフセーバーがいない!

 

 

「館山には、海水浴場がたくさんあるのに、資格を持ったライフセーバーがいない、と市役所の方から聞いていました。実際、来てみると、ライフセーバーとしても魅力的な海だと感じました。館山湾の北には、波が全くない船形や那古海岸といった、静かな港町や海岸の魅力がありますし、湾の真ん中には、海水浴客に人気の北条海岸や、凄くきれいな沖ノ島があります。さらに南へ行くと、少し波があって、しかも透明度の高い海外の海のような雰囲気です」
館山の海の魅力を感じた飯沼さんは、自治体と組んでライフセービングを根付かせる活動を10年以上にわたって続けている。
「僕が、湘南でライフセーバーをやっていた時は、自治体と一緒に何かを作り上げる雰囲気は、ほとんどありませんでした。でも、館山では“オーシャンフェスタ”といった海のイベントを自治体と開催したり、地元の人とジュニアを育成するという理想的な取り組みができています。市長を含め、館山はライフセービングにとても理解がありますし、監視本部も“もっといい監視所にしよう”と改良工事をしてくれています」
ライフセービングは、海の安全を守る監視活動が知られているが、海やビーチで行われる競技の面も持っている。
泳いだり、走ったり、救命ボードを漕いだりなど、いずれもレスキュー技術の向上に直結する実戦的な競技で、世界大会も行われているのだ。

 

地元でライフセーバーを育てて
館山の海の安全を守る

 

 

「館山のジュニアは、作って10年ほどですが、2年連続全国大会で優勝しています。今は30人ちょっとで、市外、県外からも集まっています。地域にライフセーバーがゼロだったところから始めたので、ジュニアの育成もうまくいっていると思います。ゆくゆくは地元の子たちが育って、地元のライフセーバーになって、もう僕たちは来なくてもいいと言われるようにしたいです。地域の方が、館山の海を守ってくれたらと願っています」
昨年の夏には、ジュニアプログラムで育った第1期生が大学生となり、ライフセーバーとして館山で活動している。
「日本代表の候補にも入る頼もしい存在です。一緒にパトロールに入るのが楽しみです」
全国大会2連覇という輝かしい成績があるが、館山サーフクラブの活動は、決して競技に特化しているわけではない。
「海を楽しんでもらい、水に親しむところからやっています。海岸のゴミを拾ってもらうビーチクリーンや、クリスマス会をやったりもします。シーズン前の6月にオーシャンフェスタというイベントを行って、夏の海水浴のハイシーズンを迎えます。その間、ビーチでひたすらきついトレーニングをしたり、ニッパーボードという子ども用のレスキューボードでパドリングしたりですね」

写真提供/TATEYAMA SURF CLUB

 

初夏の海のイベント
“オーシャンフェスタ”

 

 

館山の“オーシャンフェスタ”は、市と館山サーフクラブが開催する海のイベントだ。
ライフセービングを通じて、館山の海に親しんでもらい、地域を活性させる目的で、今では県外からもバスで参加者が訪れる盛況ぶりだという。
「初めての人でも参加できるアウトリガーカヌー体験や、その場で教えたニッパーボードでレースをやったり、ビーチフラッグス、ビーチ綱引き、ビーサン飛ばし、フラダンスなど盛りだくさんな2日間です。参加は増えていますが、地元の子どもたちにも、もっと来てもらいたいと市の方たちに呼びかけているところです」

写真提供/TATEYAMA SURF CLUB

 

海水浴シーズンの夏、子どもたちは
ライフセービングを通じて成長する

 

 

「小学生はガードの手伝いをしませんが、中学生からは、ガードの見習いみたいな形で、半日とか1日とか、一緒に浜に行きます。高校生になると、ライフセーバーの資格が取れて、協会のユニフォームを着てパトロールに立つことができます。中学生は、それに憧れているので、アシスタントのユニフォームを卒業して、“早く私も資格を取って、正式なユニフォームを着たい”と頑張っています(笑)」
海の安全を守るライフセービングの活動を通じて、子どもたちは先輩たちの姿に憧れ、成長してゆく。
「ライフセーバーの人数を増やすという単純な話ではなく、“館山に残っていたい”人たちを育てたいですよね。地元の海の魅力を再確認して、海を通した仕事や活動で、館山に残れるようにできたらと考えています。一度、館山を離れた人でも、サーフクラブの活動を通じて戻って来たり、移住してきた人がサーフクラブを通じて活動の輪を広けるのが理想です。最近は、子どもがサーフクラブに入ったことで、保護者がサーフクラブの活動に興味を持ってくれるようになってきました。我われの活動を通じて、館山にいろいろな人が出入りするというのが、良い循環ですよね」

写真提供/TATEYAMA SURF CLUB

 

最大の課題は、資金面と
都心との距離感

 

 

現在のクラブの最大の課題は、資金面と、都会との距離感だという。
「夏のライフガードは資金面で大切な収入です。でも、夏以外にも海に人は来ますし、海の事故も起きています。オーストラリアでは、ライフガードは公務員で、通年活動をしています。日本のスタイルとして、どこまで通年活動できるかが、僕たちのテーマです」
海水浴のシーズンを広げる案や、海岸線の清掃活動の請負、オープンウオータースイムやトライアスロンの練習場所としてのビーチ整備、子どもたちへのスポーツの指導の機会を増やすなど、可能性はまだまだ広げられるという。
「都会からの距離は遠くないのですが、それでも高校卒業とともに人材が流出しているのが館山の現状です。僕たちの活動を通じて、地域での雇用を増やせられれば、若い人材も館山に残りやすくなるのですが……」

次回も、飯沼さんと館山サーフクラブの10年の挑戦について、引き続き紹介しよう。

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