Interview

スポーツにビジネス、新たな
地域おこしにも、森林浴が効く!

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Vol.11 小野なぎさ さん(一般社団法人「森と未来」代表理事)

〈プロフィール〉
おの・なぎさ/1983年、東京都生まれ。林野庁林政審議会委員、認定産業カウンセラー、森林セラピスト。東京農業大学で林学を学んだ後、企業のメンタルヘルス支援の会社で森林を活用した研修プログラムを開発。さらに、心療内科でカウンセラーとして活動後、2011年に「保健農園ホテルフフ山梨」プロジェクトマネージャーとしてホテルの立ち上げ兼森林セラピストに従事。2015年に「森と未来」を設立。著書に『あたらしい森林浴』(学芸出版社)など。

前編はこちら

全国各地の森で、森林浴のプログラムを開発し、企業研修や、一般向けの体験プログラムとして提供している「森と未来」の代表理事、小野なぎささん。
前回、森で寝転ぶ“森ぼっこ”を中心に、森林浴の効果について紹介したが、小野さんは、ランニングやトレランなど、アウトドアでのスポーツと森林浴の相性が良いと考えている。
「屋外でのスポーツは、歩く、走るなど、移動することが中心で、“留まる”ってあまりしませんよね。だからこそ、“森ぼっこ”などで“留まる”ことに意味があります。ランニングをする公園や、いつも行くトレランの森に、“留まる”場所を作るだけで、メンタル面はもちろん、翌日のスポーツによる疲労の軽減が期待できます」
森林浴の医学的な効果は、ストレスホルモンの低下や、ウイルスに負けない免疫細胞の増加、血圧を下げる作用、睡眠の質の向上など、現代人にとってニーズの高いものばかり。
カラダに強いストレスが加わるスポーツでも、当然、森林浴の効果が期待されるという。
「走り終えたら、すぐに着替えて帰るのではなく、ちょっと、ぼーっとして欲しいんです。もちろん、医学的なエビデンスも大切なのですが、私は、メンタル的な“心地良さ”も大事にしたいと思っています」
軽いジョグとストレッチで筋肉の緊張を解き、水分やエネルギー補給をした上で、森で横になり、メンタル面からもカラダの緊張を解いてゆく。
これなら、クーリングダウンの効果も高まりそうだ。
そんな実感を、小野さんは、多くの企業の森林浴研修を経て得てきたという。

写真提供/森と未来

頭デッカチにならない
自由な発想は、森の中で生まれる

「森林浴を導入する企業のニーズは、“1回頭を休めて、自由な発想を持てるように”というのが一番多いですね。会議室の中で、“30年、50年後、世の中はどうなっているとか、地球環境をどうする”と考えても、頭ばかり使っていては、良いアイデアは生まれません」
そんな、人間本来の感覚を大事にするため、小野さんは、事前レクチャーはしないという。
「以前は、森林浴に関するエビデンスのレクチャーを行い、森に来てもらっていました。でも、あらかじめ知識があるために、素直に森を感じにくいことに気付いて、事前レクチャーを止めました」
小野さんが、「会社から“森へ行けって”言われ、よく分からないまま、来ました」という参加者と森で行うのは、やはり“五感を使う”こと。
前回紹介した“森ぼっこ”や、木の葉や枝を手で触って香りを嗅いだり、食べられる草木の実の味を感じたり、太陽の光を感じてみたりなどに加え、土の香りを嗅ぐ“土ほじり”もよく行うという。

生きている森の匂いを
“土ほじり”で嗅いでみる

「落ち葉がふかふかしている適当な場所を見つけて、落ちている手ごろな枝を探します。その枝で、落ち葉をそっとどけてゆくのが“土ほじり”です」
“土ほじり”のコツは、落ち葉の層を、順番にほじってゆくこと……。
「草や木の根などを傷つけないように、ふかふかの落ち葉をどけると、その下には、前の年の葉っぱが、くずれた状態で見つかるはずです。また、その下にも、もっと前の、一昨年前の葉っぱが、ほとんど土になって見つかります」
その匂いを嗅ぐと……、とてもいい匂いがするのだとか。
「ちょっとフルーティな、酸味のあるような香りだったりします。森によって、場所によって、違いますが、“懐かしい香り”って、多くの方は言います。この香りって、腐敗している匂いなんですよね。腐敗と言うと、悪い印象を持つ方もいますが、葉っぱが微生物の力で分解されている香りです。分解されると、栄養価の高い土になり、また木に戻ってゆくのです。そうした循環を、香りから感じてもらいます」
普段、土に触れることの少ない都市生活者にとって、“土ほじり”は、五感を記憶の底から刺激する、とても良い体験だという

50代以上が、森で感じるワクワク感
「今、なぜ、ないのでしょう?」

小野さんの森林浴プログラムでは、森の中での休憩で、車座になって、参加者同士が話をすることもある。
「テーマは、いつも、特に決めていません。皆さん、しゃべりたいこと、今、思っている感情、感覚を口にしてもらいます」
50代以上の参加者の多くは、“土ほじり”同様に、「懐かしい」と語り、次のような言葉をよく口にするという。
「懐かしいです。山に入って、虫を探したりことを思い出したり、もの凄くワクワクしていました!」
小野さんは、そんな言葉に対して、必ず、問いかけをする。
「そのワクワク感。今、なぜ、ないのでしょう?」

写真提供/森と未来

若い世代の、初めての森体験
何を感じるかを、大切にしたい

若い世代、特に20代では「懐かしい」経験そのものがない参加者も多いという。
「“森ぼっこ”で横になって、空を見上げたら、“3Dみたいですね”と話す方がいました。これがリアルなのに、見たことがないんですね」
そんな参加者たちに、小野さんは時間をかけ、次のような問いかけをする。
「そういう感覚ってどう?」
「気持ちいい?」
「もっと、こういう時間が欲しい?」
小野さんは、意識をいったん会社や仕事と切り離し、森の中で、もっと素直な感覚を呼び覚ましてもらうように働きかけている。

写真提供/森と未来

森林浴+地域の文化で
地域おこしのコンテンツに!

「“うちの地域でも、森林浴プログラムをやりたい”という依頼は増えています。医療との連携で日本の森林浴は脚光を浴びましたが、私は、その地域の文化に合ったプログラムにすることで、さらに可能性が高まると考えています」
確かに、日本列島は縦に長く、急峻な山を持つので、地域ごとに森の様子は異なる。
「東京と長野でも違いますし、宮崎と福岡でも、生えている木々が違います。そんな森には、地域に根差した山岳信仰があったり、神社仏閣があったり、オリジナリティに溢れています」
小野さんは、地域の森とのかかわり方や、文化や歴史を織り交ぜ、その地域独自の森林浴プログラムとして提供している。
「長野の木曽谷にある上松町に、赤沢自然休養林という国有林があります。赤沢の森は、伊勢神宮の遷宮にも使用される樹齢300年を超える木曽ヒノキの天然林で知られています。日本の森林浴の発祥の地と言われ、医学的な森林セラピーの基地もあるのですが、この赤沢自然休養林で作ったオリジナルプログラムで、地元の人に“木遣り(きやり)”を歌っていただきました」
“木遣り”は、森での作業の掛け声が唄になった、地域に伝わる伝承歌だ。
「私の本の出版記念に、お医者さんも同行した、特別プログラムを作りました。そこでは、地元の方に、“この切り株は、ご神木として伊勢神宮へ行った跡”などと説明していただきながら、“木遣り”を歌ってもらいました。“木遣り”が森の中に響いて、皆さんとても神聖な気持ちになって、泣き出す人も出るくらいのプログラムになりました。森林浴を、健康とか、メンタルだけでなく、地域の歴史などの文化とも結びつけると、もっと可能性が広がります。単に歩くよりも、もっと歩数も増えますし(笑)。森林浴が、新たなふるさと作りになればと願っています」
小野さんの提案する森林浴は、癒しを求める疲れた現代人と、木を売るだけでは立ち行かなくなっている地域の課題に対する、ひとつの答えだと言える。
今度の週末、晴れたら、森に行って “土ほじり”&“森ぼっこ”。
ちょっと、やってみませんか?

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