Interview

海外セレブは、アウトドアがお好き?
過酷かつクレージーなトレイル事情を探った

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Vol.8 池田祐樹さん(プロマウンテンバイクライダー)

〈プロフィール〉
いけだ・ゆうき/1979年生まれ。TOPEAK-ERGONレーシングチームUSA所属のプロマウンテンバイクライダー。北米とアジアを中心に、クロスカントリー競技でも長距離の100マイル(160㎞)のレースや「ステージレース」を中心に活動。2019年の戦績は、「セルフディスカバリーアドベンチャーin王滝100km」(日本・長野)優勝のほか、トレイルラン「アドレナリンナイトラン50㎞」(アメリカ・アリゾナ)優勝など。

過酷なレースが、大人気なワケ

マウンテンバイクの競技には、いろいろな種類があります。
その中で、僕がフォーカスしているのは、100マイル(160㎞)のレースや数日から1週間、あるいは10日間など、毎日走って総合タイムで競う「ステージレース」形式のレースです。
アメリカのチームに所属しているので、必然的に北米が活動の拠点ですが、日本も含めたアジア各国、そしてネパールやモンゴルなどアドベンチャー要素が強い場所でも、レースに出ています。
驚くことに、そういう過酷なレースの多くは、エントリー開始と同時に、枠が埋まります。
2019年の11月に出場した、ブラジルの7日間のレースは、800人規模でした。
参加者のほとんどは、プロ選手ではなく、フルタイムワーカー。
つまり一般の方々で、プロ選手は20~30人だけです。
また、その方々の内訳は、20代から70代の方まで、老若男女を問いません。
体型も皆さまざまで、相当カラダを絞ってきた人もいれば、失礼な言い方ですが、ちょっとポッチャリした方もいます。
そんな方々は、完走することを第一の目標に、過酷なレースに挑戦しています
優勝のプロ選手が5~6時間で走りきるコースを、10時間かけてゴールするイメージです。
僕たちが、レースを終え、シャワーを浴びて、ディナーを食べている時にフィニッシュしてくる方たちもたくさんいます。
でも、どんだけ辛い顔なのかって、実際にフィニッシュを見に行くと……。
驚くことに、みんな笑顔なんです。
しかも彼らは、その時間から翌日の準備をしたり、シャワーを浴びるのですが、レース仲間とビールを飲んでワイワイやっています。
仕事をしながら、準備やトレーニングに時間や労力、しかもお金をかけて。
それでもスタートに立って、存分に楽しんでいるのは、本当に凄いと思います。

2週間を休んで、100万円払って、エンジョイする

7日間のステージレースに出る一般の方たちは、その前後も仕事を休んでいます。
多くの参加者が海外から来るので、2週間ほど休むことになります。
もちろん、そんな方々は、経済的にも恵まれています。
マウンテンバイクのステージレースは、基本的にテント泊なのですが、そういう方たち向け、ラグジュアリーなホテル宿泊プランが、オプションで用意されていたりします。
オプションの有料サービスで、マッサージや自転車メカニックもあったりします。
レースは大変だけれど、それ以外の時間はリラックスして、エンジョイできるレースが増えていますね。
費用は、最高クラスのオプションを全て付けると、参加費込みで50万円ほどになる場合も。
これに、ビジネスクラスの海外航空券代、前後のホテル代などを加えると、100万円クラスになることもあると思います。
それでも、毎年出ている方もいるんですよ。
もちろんコストを抑えることもできますが、投資を惜しまずにビッグチャレンジ付きのバケーションをエンジョイしているように思います。
参加している一般の方々は、非日常的な体験を楽しんでいるのだと思います。
現代社会で、大自然の中で自分に正直になれる瞬間は、本能的に求められていますから。
“過酷でも、挑戦してみよう!”って惹かれる人が、世界にはたくさんいます。

ヨーロッパでは、イーバイクが人気

イーバイクも、増えています。
電動アシスト付きのいわゆるイーバイクは、北米よりもヨーロッパが盛んです。
イーバイクなら、トップ選手のペースに付いてゆけるので、選手と一緒に行くツアーもたくさん企画されています。
特に印象的だったのは、自転車ロードレース「ジロ・デ・イタリア」の舞台でもある、イタリア北部ドロミテ山塊で見た、マウンテンバイクツアーです。
急峻な山岳エリアで、マウンテンバイクに乗ろうと思ったら、迂回の道路はありません。
そんな凄いトレイルを登り切った所に、素敵なレストランがあるのですが、お店の脇に、結構な数のイーバイクが並んでいて、驚きました。
覗いてみると、50~60代の方が中心に、ワイワイ楽しそうに食事をしているんです。
自然の中で、カラダを動かして、山の上の良いレストランで食事する、そんな“質の高い生活”を楽しむいい方々が食事の姿は、僕として印象的でした。
そんなことができるのも、イーバイクだからこそ、ですよね。
また、ヘリコプターにマウンテンバイクを積んで楽しむ、ガイドツアーも人気です。
これなら、急坂を上らなくても良いので、電動アシスト無しでも楽しめます。
スキーでも同じようなツアーがありますが、オンラインの自転車のコーチングサービスや、グループのクリニックと連動したり、現役のトッププロが同行するので、こちらも人気です。

トレイル(山道)の優先順位は、馬、人、マウンテンバイク!

マウンテンバイクは、残念ながら日本ではまだメジャーではないかもしれません。
でも、世界の流れ的にはマウンテンバイクが熱くなってきているのを、ヨーロッパなどで開催されるバイクショーの傾向からも感じています。
もちろんアメリカでも、マウンテンバイクはポピュラーです。
競技性という面だけでなく、家族や友人で楽しめるアクティビティーとしても人気です。
なので、アメリカの多くの街では、マウンテンバイクが走るトレイル(山道)に投資をして、いいトレイルを作っています。
トレイルの整備が、環境事業でもあり、観光客の呼び込みにも繋がっているのです。
誰もが自由に走れるトレイルを作って、そこにイベントなどを誘致して、さらに観光客を増やす試みがなされています。
僕が好きで、よく訪れるコロラドは特に盛んですが、どの州も、マウンテンバイカーではない、マルチユースに対応するトレイルの整備に力を入れています。
トレイルは、さまざまなユーザーが使うので、トレイルヘッド(山道の入口)にマナーの看板が設置されています。
アメリカのトレイルの優先順位は、基本的に、馬、人、マウンテンバイクの順です。
馬が一番なのは、臆病だからです。
すれ違う時も、乗馬の馬と人が通り過ぎるまで、マウンテンバイカーもハイカーも動かず、止まって待つが基本です。
僕も最初、乗馬が優先の看板を見た時に、「馬いるの?」と思ったものですが、都市近郊の方が、乗馬の人はたくさんいますね(笑)。

トレイルは、誰のもの?

コロラド州の州都デンバーのトレイルでは、マウンテンバイクは一方通行だったり、入れる日を決めたりなど、トレイルが混雑する都市近郊ならではの工夫がされています。
トレイルの管理は、NPOの場合もありますが、州や国、町自体がやっていることが多いですね。
その際のキーワードは、先ほどの、馬、人、マウンテンバイクも含め「シェア」です。
“みんなで自然を楽しもう”、“自然の大切さを感じて、保護してゆこう”という流れが強く反映したシステムを作っていると感じています。
マウンテンバイクに限らず、看板の充実度、イベント、トレイルのメンテナンスや造りなど、本当によく考えられています。
時折、トレイルの看板に、トレイル整備のチラシが貼ってあります。
そのチラシには、日時、場所、やる内容が書いてあって、ボランティアを募っています。
大雨やハリケーン、雪解けの後など、トレイルが崩れたら、ボランティアたちが、石をどかしたり、道の脇の溝を切ったり、土を盛って固めたりもします。
参加しているのは、いろんな方で、マウンテンバイカーもいるし、トレイルランナーもいるし、トレイルで犬の散歩をしている近所のおばあさんもいます。
同じトレイルをシェアしている人たちが、作業を通じて、互いに話を聞けるのは、いろいろな気づきがあって、僕も毎年、楽しみにしています。

次回は、アメリカのトレイルラン事情について、池田さんの話が続きます。

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