運動の前と後の、“体重チェック”は
手間も、お金もかからない、熱中症対策である

Share

Facebook Twitter Line

熱中症対策は、水分補給、そして体温コントロールが重要だ。
急上昇した体温を、38℃台の安全圏に下げるための、迅速、確実な
体温コントロール術として、氷水に全身を浸す方法が広まりつつある。
さらに行いたいのが、計画的に暑さに慣れる「暑熱順化(しょねつじゅんか)」。
10日~2週間、暑熱環境でトレーニングを続けることで、
シーズンに向けて、汗をかくカラダへと整えてゆける。
と、ここまでが前回のおさらい。
今回紹介するのは、そんな暑熱順化を、上手に進めるために役立つ、
手間も、お金もかからない、体調管理のための体重チェックだ!
スポーツ時の安全を啓蒙するアスレティックトレーナー
「スポーツセーフティージャパン」の代表理事、佐保豊さんに
引き続き話を聞いた。

インタビュー前編はこちら

 

「日本以外では、暑い夏はスポーツはシーズンオフになる国が多いですね」
と語るのは、スポーツを安全に行う環境作りをサポートしてきた、スポーツセーフティージャパンの代表理事の佐保豊さん。
佐保さんは、日本オリンピック委員会の医科学強化スタッフの一員でもあり、海外経験も豊富なアスレティックトレーナーとして、スポーツ現場での熱中症対策に取り組んできた。

「私は、南米のサッカーチームで、3年ほどトレーナーをしていましたが、彼らは、暑い日の練習をさぼります(笑)。ヨーロッパのサッカーを含め、ほとんどの屋外競技も、リーグとして真夏はお休みです。例外は、アメリカのメジャーリーグですが、野球は攻守交替で、ベンチで休憩できるからでしょうね。海外の学校の多くも、5月や6月でオフになり、9月に始まります。一方、日本のスポーツは、逆に夏に一番盛り上がりますよね。文化的なものなので、変えるのは難しいと思いますが、夏の熱中症だけでみれば、やり方を、もっと検討していいと思います」

熱中症対策は、練習の前と後の“体重チェック”で!

「熱中症のリスクを回避し、暑さに慣れる“暑熱順化”。前回、ご紹介した暑熱順化を上手く行うためにも、日頃から自分の体調を把握しておくことが大切です」
そこで、佐保さんが提案するのが、練習の前後の、体重チェックだ。
体重を量って、記録しておくだけなら、確かに手軽だし、お金もかからない。
しかも、記録をつけることで自己管理能力が高まるので、大学の運動部を中心に、多くのアスリートが行っているという。

「体重は、運動の前と後に量ることで、その差で、汗で失った水分の量を計算できます。この汗の量が、運動前の体重の2%を超えると、危険とみなします。なお、この値が3%以上になると、完全に脱水症状で、熱中症のリスクが大幅に上がります。水分補給をキチンとしても、翌日に体重が戻っていなければ、練習を休むことも考慮せざるをえません」


運動前の体重‐運動後の体重=汗によって失った水分(運動前体重の2%以内が目安)
例1 70㎏‐69㎏=1㎏(体重の1.42%   …… 〇)
例2 70㎏‐68.5㎏=1.5㎏(体重の2.14% …… ×)

 

「体重チェックは、自分が補給する水分の量を“見える化”できるのが利点です。運動後、2%以上減っていれば、運動中の水分補給が足りなかったということ。もっと“小まめに水分補給”をする必要があります。」
また重要なのは、汗をかいたその日のうちに、小まめに水分を摂って、体重を戻すこと
「運動後のストレッチやプロテイン摂取と同じく、クールダウンのひとつとして、失った分の水分補給も行って欲しいですね。寝不足、風邪気味、お腹を壊しているときは、熱中症のリスクが高まります。練習のない日も体重を計測して、体調を把握するのが大切です」

熱中症リスクのある際に、やってはいけないことはあるのだろうか?
「暑い日や、サウナで汗をかいて、最初にやりたいことがあると思いますが、まさにそれです(笑)。泡のついた、アルコール飲料をグビッといきたくなりますが、アルコールには利尿作用があるので、勧められません」
昼間のトレーニングで失った水分は、時間をかけての補給が、原則なのだ。
「利尿作用のあるアルコールは、運動後に水分やミネラルを十分に補給した後、時間をおいてから、飲んでいただきたいですね」

高所への順化、メンタル面を平常に保つのも、エネルギーが要る

カラダの機能を正常に保つためには、暑さ寒さの気温だけでなく、エネルギーが必要だ。
それには、緯度や経度、さらには高度への調整も含まれると、佐保さんは語る。
「サッカーの南米予選では、コロンビア、ペルー、ボリビアなど、富士山のてっぺんみたいな高所で試合を行っています。欧米で活躍するプロ選手は、ゆっくり高所に慣れるような時間的な余裕はありません。なので、あえて高所への順化をせず、飛行場からスタジアムに直接入り、試合をやって帰ってきます。リスクは高いのですが、彼らは、高所への順化の逆手を取って、厳しい試合スケジュールに臨んでいます。こうした調整に要するエネルギーは、肉体面だけなく、メンタル面にも及びます
佐保さんは、メンタルの調整に悩む選手たちを、たくさんサポートしてきた。
「メンタルは、肉体的な反応と異なり、千差万別です。チームスポーツの場合、何十人もアスリートがいるので、ひとりひとりアプローチが変わります。メンタルが良ければカラダも良くなりますし、カラダが悪ければメンタルも引っ張られて悪くなったりします……」

アスリートは、試合結果による一喜一憂が大きい分、メンタルの調整が難しい。
「勝ちだけを追いかけている選手は、メンタルが安定しません。そんな選手は、不慣れなストレスがあると、平常心を保ちにくくなります」
さまざまなストレスが加わっても、平常心を失わないアスリートは、勝ち負けを超えた部分が決め手になるという。
「どんな仕事も同じだと思いますが、プロのスポーツ選手も、勝ち負けではなく“なぜこの職業を選んで続けているのか”と自分なりの意義を見出せると、やはり強いですよね」

 

カラダを“平常に戻そうとする”エネルギーが、疲労である

「暑さ寒さ、そしてメンタルも含め、私たちの身の回りには、たくさんのストレスがあります。これらのストレスに対して、カラダを平常に戻すには、エネルギーが必要です。そのエネルギーが、実は、疲労の正体です
疲労の度合いは、ストレスへの、当人の受け容れの能力が大きく関わっている。
「普段ほとんど走らない人は、5㎞でハーハー言いますが、普段から10㎞走っていれば、たいした負荷ではありません。英語が話せる人は、英語圏で暮らしても疲労は感じませんが、英語が話せなければ疲労を感じるのと同じです。本人のキャパを超えると、平常に戻そうと、疲労を感じるのです」

生きてゆく限り、ストレスはゼロにはならない。
必要なのは、ストレスに対して、自分自身の受け容れ能力を高めることだ。
「暑熱順化を含め、体力もメンタルも、常にトレーニングが必要なのはそのためです。トレーニングを怠ると、どんどん慢性疲労が進み、燃え尽き(バーンアウト)にも繋がります。だからこそ、体重だけでなく、体温や心拍数などのカラダの情報を記録し、自分の状態をセルフモニタリングすることが大切なのです。メンタルもカラダも、鍛えるだけでなく、ケアが必要です。自分が気持ち良いとか、楽しいと感じるものを見つけて、続けてゆくことです」
気持ちの良いと感じるケア方法は、まさに十人十色だ。
「それが、スポーツである人もいれば、音楽の方も、いろいろあると思います。自分で回復できる方法を見つけて、疲労の予防をすることは大事ですよね」

Vol. 19 佐保豊さん
(スポーツセーフティージャパン 代表理事)

〈プロフィール〉
さほ・ゆたか/1972年生まれ。米国BOC公認アスレティックトレーナー(ATC)。日本オリンピック委員会医科学強化スタッフ。男子アイスホッケー日本代表、フットサル日本代表、名古屋グランパス、サッカーチリ代表、チリプロクラブチーム(サッカー)、アナハイムマイティーダックス、西武プリンスラビッツ、日光アイスバックス、東北フリーブレイズ(アイスホッケー)でアスレティックトレーナーを歴任する。「日本のスポーツ環境をより安全に」する目的で、2007年にスポーツセーフティージャパンを設立。

インタビュー前編はこちら

 

このページをシェアしよう!